デザインの取り扱い説明書〜3つのNG

この記事は、2003年からU23が研究してきた結論をまとめた、デザインのことはよくわからない人やわかったつもりになっている人に贈る、デザインの取扱説明書です。「赤信号は止まれです。」ぐらいの、デザインの知識が全く無くても知っているか知らないかだけで、誰にでも簡単にできる絶対に失敗しない黄金の鉄則です。

グラフィックデザインにせよ、ウェブデザインにせよ、空間デザインにせよ、プロのデザイナーがディティールまで魂を込めて仕上がった最高のデザインも、ユーザーが安易に取り扱いを間違い手を加えてしまうと、たちまちバランスが崩れ焦点のずれた残念なデザインに成り下がります。

喩えるなら、一流の職人が厳選した素材を選んで熟練の技術で握った寿司に、素人がファーストフードのケチャップをかけるみたいなものです。それでも元がいいからそこそこおいしいかもしれないし、その人が好きなように食べたらよいのかもしれません。しかし、ベストではないのは確実で、多少なりとも寿司のことを知っている人なら、職人も他のお客さんも、愕然とし、もったいない、愚か、敬意に欠ける、無知は罪などと感じるでしょう。お寿司にはケチャップはかけるものではないよと教えてくれる人がいれば幸せものです。誰にも教えてもらえず裸の王様になって、いつかその事実に気づいた時に後悔や恥ずかしさや罪悪感を持つことでしょう。世界中がアンハッピーになります。デザインも同じです。

デザインの正しい使い方とメンテナンス方法を知らないから起きる悲劇です。成功の要因、洗練されたデザインの正解は人によりさまざまですが、失敗の原因、不正解は、ほぼ共通しています。難しいことは考えなくて大丈夫です。次の3つだけ絶対にやらないでください。「なにをやるか」ではなく、「なにをやらないか」が大切なのです。

余計なものを足さない

ポスターでもウェブサイトでも空間でもデザインを納品された後に、付け足したいものがあったとしても、ノンデザイナーが無断で適当に空いてる場所にそれ加えてはいけません。その余白は、ホワイトスペースというデザインの最も重要な要素の一つです。

空けているスペースは、バナーを置く場所でも写真を飾る場所でもありません。何も置かない場所なのです。空間が詰まるとデザインも息をできず死んでしまいます。デザインは、引き算です。

星の王子さまの作者も言っています。

“完璧になるのは、加えるものがなくなったときではなく、取り去るものがなくなったときです。”

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ

付け足したいものがあるときは、デザイナーに相談しましょう。

余計なもの付け加えてはいけません。

勝手に変更しない

パンフレットの画像を変更したいとか、オフィスのモニタを変更したいとか、デザインの納品から時間が経てばそんなこともあるでしょう。だが、その言葉や写真やアイテムは、デザイナーが全体を俯瞰し調和と対比を緻密に計算し、無数にある選択肢の中から最上のもの選択し、最適な場所に配置し磨いたものです。

コーポレートカラーは赤だからと、安易にここもとりあえず赤にしてはいけません。赤にもいろいろ種類があり、そこは、強調すべきなのか、焦点を合わせるべきなのか、反復すべきなのか、対比するべきなのか、赤ではなく補色の白くすべきところかもしれません。

変更したいときは、必ずデザイナーに相談をしましょう。

勝手に変更してはいけません。

混ぜない

ほとんどの場合、デザインするものは一つではなく、名刺もあれば、パンフレットもあるし、ウェブサイトもあり、ストアもあるかもしれません。グラフィックデザインとウェブデザインは、眼科と耳鼻科ぐらい違い、複数のクリエイターが必要な場面はあり、それらを異なるクリエイターがばらばらにデザインすると、単独では素晴らしいデザインだったとしても、全体の統一感のなくコンセプトもブレたものになってしまいます。デザインは、組み合わせによって、プラスにもマイナスにもなります。プラスにするためには、複数のクリエイターが手がけても、必ず最高デザイン責任者がすべてのデザインに目を光らせ最終チェックを行うことが、最も簡単で最も効果の高い方法です。

極端な例を挙げると、鳥山明の『ドラゴンボール』は、世界中で愛される史上最高の漫画作品の一つですが、原作者の手を離れ、映画の世界最高峰ハリウッドと混ぜると、『ドラゴンボール・エボリューション』という世界中からクレームが来る最悪の映画を生み出してしまいました。混ぜさえしなければそれぞれ世界トップクラスなのにです。料理で例えるなら、世界一おいしいケーキに世界一おいしい醤油をかけると、混ぜてしまうことで悲劇になります。

ちゃんとブランディングしたければ、デザイナーに相談せず、安易にロゴを刻印してTシャツを作るなど言語道断です。ハイブランドでコーディネートしている中に、一点だけ低品質のTシャツを着ると、Tシャツだけが異物で余計に目立つ、最悪の現象が起きます。

混ぜたいときは、デザイナーに相談しましょう。

混ぜるな危険です。

以上、極論を言うと、納品されたデザインに対して、なにもせずそのまま使うことです。基本的に、デザインは完成した時が最も洗練されています。使っているうちに劣化するダメージをいかに減らすかが大切です。事業活動の中で変更が必要な時はあるので、その時にプロに相談することで、デザインを永く美しく保つことができます。

どんなに名医に丁寧に歯の治療をしてもらっても、お家で日々の歯磨きをしなければ虫歯ができ、定期的にメンテナンスを受けなければ自宅では磨けない箇所があるように、どんなに名デザイナーが洗練したデザインも、職場で手を加えられると台無しになり、定期的にデザイナーによるアップデートが必要です。

プロがデザインしたものに、ノンデザイナーが手を加えることは、世界中にアンハッピーをもたらします。餅は餅屋です。貴重な時間は自分しかできないことに使いましょう。